ピカソの隣人より 4月の新刊のお知らせ

(新作 星がひとつほしいとの祈り)

本日4月15日、新刊が書店に並びました。
タイトルは「星がひとつほしいとの祈り」。
きなり色のシンプルな表紙に、文字通り、金色の星がひとつキラリ。
さまざまな世代の女性たちの、試練と旅だちのときを描いた中篇集です。

読み返してみると、私の旅のファイルのようにもなっている。
年がら年じゅう旅がらすをやっているのは周知の事実なのだが(フーテンのマハの異名もアリ)、旅先のふとした出会いや偶然の出来事が、小説の種になることが多い。だからひとつの旅が終わると、また別の小説の種を求めて、次の旅へと出かけることになる。いったいいつ東京にいて、いつ仕事をしているのか??と周囲からはしきりに不思議がられているのだが。
この小説集は、そうやって方々を遍歴して集めてきた旅のきれぎれを、ドラマに仕立て上げたものだ。

「椿姫」という一編だけは東京が舞台だが、それ以外は、大分県日田市(夜明けまで)、愛媛県松山市(星がひとつほしいとの祈り)、新潟県佐渡市(斉唱)、秋田県男鹿市(寄り道)、高知県四万十市(沈下橋)…などなど、狙ったわけではないが、ほどよく拡散して地方に舞台を求めている。
「夜明けまで」という物語などは、湯布院から博多へ向かう特急に乗っていて偶然通過した駅の看板をわずか2秒、目にした瞬間に、またたくまに着想した。その駅の名前が「夜明」だったから。

表題作の「星がひとつほしいとの祈り」は、もともと私が中学生のころ大好きだったフランスの詩人、フランシス・ジャムの詩集のタイトルで、ずっと心にしみこんでいるものだった。内容は、松山の道後温泉に旅したときに出会った老マッサージ師をモデルにして書いたものである。こんなふうに、少女時代に印象に残っていたタイトルが、幾年つきを経て、自作の小説に結びつく不思議さを思わずにはいられない。

この本を作るにあたっては、パリ滞在時に遠隔操作で、実業之日本社・担当編集者のSさんと頻繁にやりとりをした。
前作「インディペンデンス・デイ」もそうだったが、自分が日本を不在にしているあいだに、2冊の本の出版準備をしなければならなかった。しかしSさんもまた、日本=フランスの距離も時差もものともせず、実にてきぱきとフォローしてくださり、見事に仕上げてくださった。Sさん、ほんとうにありがとうございます!

旅すれば、それはやがて物語になる。
今回のパリ滞在も、その長さを考えれば、かなり壮大な物語になるはずだ。って長さと内容はべつだん比例しないのだが。
| - | 23:47 | - | -
ピカソの隣人 とりあえず帰国報告

(深大寺の桜、満開!)

えーと、現在2010年4月12日午後4時半です。
いきなりですが、ピカソの隣人は日本に帰国しました。
とりあえずは、ご報告しとかなくちゃ!とあせってブログを更新しています。

というのも、「原田マハは4月になってもまだバーゼルでチーズフォンデュ食べたり家具のショールームを観たりしてるらしい」「まったく仕事をしてないんじゃないか」「4月に帰国するって言ってたのに、さてはフランス滞在延長か」などと、多方面から疑惑の声が上がっているので。
ブログではすでに一か月近くのタイムラグが生じてしまっております。
これもすべてわたくしの怠慢で・・・じゃなくて、書くことがあんまり多すぎて、ですね。
って、なんで「ですます言葉」&言い訳しているんだろう、私・・・・・・。

というわけで、とりあえず帰国はしたものの、このさき一か月くらい「ピカソの隣人シリーズ」は続く。とっくに「深大寺の隣人」に戻ってるんですが。
これからがめくるめく山場続き。こりゃもうやめるわけにはいかない。どうか皆さま、お付き合いください。
| - | 16:38 | - | -
ピカソの隣人 ヴィトラのショールームへ行く

(ヴィトラ社のショールーム)

バーゼルに数ある美術館の中でも、特筆すべきは「ヴィトラデザインミュージアム」。正確にいうとバーゼル市内ではなく、スイスとの国境を越えたすぐのドイツ国内にあるのだが、バーゼル市内からバスで20-30分ほどで着く。まわりになんにもない郊外の広大な土地に、家具メーカーのヴィトラ社の本社と工場、そして美術館がある。
美術館はアメリカ建築界の奇才、フランク・ゲイリーの設計で、工場やオフィスもザハ・ハディードや安藤忠雄など名だたる建築家の手によるもの。

私はキュレーター時代に、何度もこの美術館を訪れた。小さいながらも特徴のある企画展がすばらしい。
つい先日、ドナルドが所属する建築事務所ヘルツォーク&ド・ムーロン(HdeM)が手がけた「まったく新しいタイプのショールーム」が、美術館の向かいにオープンしたということで、ドナルドとともに見に行った。

外観はHdeMらしい奇抜なデザイン。立方体を複雑に組み合わせた形が「さあ見にいらっしゃい、おもしろいよ」と誘いかけているようだ。
中は階層が複雑に入り組んでいて、さながらプレイランドの赴き。上へいったかと思うといつしか下へ向かっていたり、こっちを見たいと思ったのに、あっちを見てしまったり、と迷路のような楽しさがある。東西に設けられた大きな窓からは豊かな自然の風景が見渡せる。そういう環境の中に、実に巧みにおしゃれ家具が配置してあり、つい座ったり触ったり。「ああ、ここが自分の家だったらな・・・・」と妄想せずにはいられない。


(立体的な空間構成)

ショールームらしからぬショールームに、訪れている人々はすっかりはまっている様子。子供たちも大喜びで(子供部屋のショールームもあった)、「パパぁ、あたしの部屋こんなのがいいッ!」とおねだりして騒いでいる(たぶん)。カップルは「将来はこんな部屋に住もうね・・・」と思わずラブラブモード。私はいまだかつてこんなに人々を夢中にさせるインテリアのショールームを見たことがない。もちろん家具も空間もすばらしかったが、何より人々が熱中しているのを見るのが楽しかった。


(ショールームからの風景)

(テラスで風景を楽しむ人々)

しかし熱中するだけであっさり帰られては会社的にはやっていけない。そこはさすが、なのだが、新しいタイプのショッピングシステムを導入している。
スタッフに頼んでその日限りのIDカードをもらう。これをタッチパネル型PCに挿入して、自分の名前とメールアドレスを入力。そしてほしい家具を検索し、値段をチェック。すぐに買わなくても、「興味あり」とクリックすれば、日を改めてヴィトラ社からメールが届くというもの。これにはうならされた。「焦って買わなくてもいいですよ、ゆっくり考えて決めてください」という余裕のメッセージが、かえって購買意欲を刺激する。うーむ、おそるべしヴィトラ社。


(タッチパネルでお買い物)

ドナルドはさっそく登録して、気になるチェストをチェックしていた。私だって気になりまくりなのだが、さすがに東京まで送ってもらう財力はなし。指をくわえて嘆息するばかり。

いつかはヴィトラでマイケル買い。ああ、またひとつ見果てぬ夢が増えてしまった。
| - | 18:09 | - | -
ピカソの隣人 チーズフォンデュを食す

(市庁舎前で朝食)

バーゼル三日目の朝食は、近所のカフェに食べに出かけた。
「純喫茶」とでも呼びたいような風情のカフェは、市庁舎前広場で19世紀末から営業を続けているという超老舗。日本橋の「藪そば」みたいなものだろうか。クロワッサンの味はパリにはかなわないが、おとぎ話に出てきそうな古い市庁舎を眺めながら気分良く朝食。

さて本日はドナルドもオフで、私の行きたいところへ付き合ってくれるという。私のリクエストは「スイスで一番キレのいいチーズナイフを買いに行く」。こんちゃんの家で使っているチーズナイフを、いいなあ、と思っていたのだ。スイス製かドイツ製のチーズナイフをバーゼルで買って帰ろうと心に決めていた。

ところがドナルドと迷い込んだのは、めちゃくちゃおもしろい古本屋。アート、建築を中心に古地図や地元アーティストの作品までも扱うこの本屋に夢中になり、なかなか次に進めない。哲学者然とした店の主人は、聞いてみると音楽史の研究者だとか。こんなふうに好きな本に囲まれて自分の研究もできる生活、憧れるなあ。


(名物の古本屋)

ランチは地元っ子の通うレストランで「ベリーバーゼル」な定食を。
で、あっちこっちうろうろするあいだに日が暮れる。結局、チーズナイフはみつからなかった。ドナルドが「マハがパリにいるあいだにナイフをみつけて持っていくよ」と言ってくれる。ああ友よ。君はなんていいやつなんだ・・・


(バーゼル名物でランチ)

夜はドナルドの仲間の若手建築家の家へ遊びにいく。
おりしも「チーズフォンデュパーティー」が開催されていた。日本でいったらもろ鍋パーティーという感じ。たっぷりのチーズを鍋に溶かし、白ワインとすりおろしたにんにくなどを加え、フォンデュを作る。そこに野菜や肉を串に突き刺してディップして食べる。
んもううますぎて、食べても食べてもまだ食べられる。ちなみにビールは絶対にご法度だそうだ。胃の中でチーズが固まってしまい、七転八倒の痛さになるとか。(実際みんなワインとお茶を交互に飲んでいた)


(チーズフォンデュ)

やり手の若い建築家たちのつどいというので、容積率の話にでもなるかと思いきや、メイントピックは「かろうじて乳首のかくれている水着であってもそれはヌードではないのか」ということ。んなことを大まじめに口に泡して大議論するスイス人とドイツ人とブラジル人とアメリカ人とカナダ人。日本人はひとり、ひたすらフォンデュを食べてごまかした。たとえ乳首は隠れてても、乳房がもろに出てんならヌードじゃないか!と心の中で叫びつつ(弱気)。


(若手建築家の集い)

そんなこんなで、マイナス5℃の夜が更けゆく。
| - | 05:38 | - | -
ピカソの隣人 ルソー展を観にいく

(ライン川にかかる古い橋)

バーゼル訪問の最大の理由。それは、バイエラー財団の美術館で開催中のアンリ・ルソー展を見ることだった。

日本にもファンの多い画家・ルソーは、「素朴派」とか「日曜画家」とか「元祖ヘタうま」とか言われているが、調べてみると謎の多い画家だ。
私は十代の頃からどうもルソーの絵に奇妙に魅かれて、「いつかルソーについて何か書こう」と、物書きになるつもりもなんにもない頃から考えていた。作文とかマンガとか論文とか、なんでもいいからルソーをテーマにした何かを書こう、と。
四半世紀もそんなことを考え続け、念願かなって小説を書くことになった。なんであれ、あきらめずにしつこく考え続けていると形になるものなんだ、と悟る。

小説の中にはいくつかの舞台が登場する。倉敷、ニューヨーク、パリ、そしてバーゼル。「007」か「ミッション・インポシブル」かというレベルの(嘘)、世界を股にかけたアート冒険譚になる予定だ。
バーゼルを舞台のひとつに選んだのは、歴史的なアートシティであること、そして、私がひそかに敬愛していた伝説のコレクターでギャラリストの存在があったからだ。
その人の名は、エルンスト・バイエラー。バーゼルアートフェアの仕掛け人で、小都市バーゼルを国際的なアートマーケットの中心地にのし上げた立役者だ。大変な彗眼の持ち主で、すばらしいコレクションを形成し、それをもとに「バイエラー財団」を設立、美術館をオープンした。建築家レンゾ・ピアノ設計によるこの美術館はバーゼル郊外にあり、美しい山々を背景にした自然に溶け込むかのような流麗な建築でも知られる。
それにもましてすばらしいのはコレクション。バイエラー氏が生涯をかけて集め続けた数百点の名画の数々は嘆息もの。個人の情熱と感性が形成した名コレクションは、まさにバーゼルの至宝である。
このアート界の巨星のごとき人に、私は何度か会い、親しく会話をしたことがある。ちっともかたくるしいところのない、アートが好きで好きでたまらない、という感じの人だった。彼に強く魅かれた私は、彼をモデルにしたコレクターを重要人物として小説の中に登場させたい、とひそかに目論んでいたわけだ。

パリでの長期滞在は、ルソーの足跡をたどるためでもあったが、実はパリの美術館にあるルソー作品はほとんどが留守。ここバーゼルの美術館に集結していたのだった。
展覧会を企画したキュレーターのフィリッペに、懇切丁寧に展示を案内してもらう。
展覧会は完成度の高い、集中力のある、すばらしいものだった。専門家の説明を聞きながら、というのもすばらしかったが、何より個性の塊のようなルソー作品を実に効果的に展示している。パリの美術館で見るルソーとは、一味違うものがあった。

そしてフィリッペから衝撃的な話を聞く。
実は、バイエラー氏が2週間前に88歳で亡くなったとのこと。このルソー展のオープニングが、彼が人々の前に姿を現した最後の瞬間だった、ということだった。

ちょうど100年まえ、ルソーが天に召された。その100年後にバイエラー氏が亡くなったとは。
バイエラー氏がもっとも愛したという、ルソーの熱帯風景の作品の前で、しばし偉大なるコレクターの死を悼む。
ルソーの小説を今年書く、という私の決意は、何か運命的に導かれているような気がする。


(雪の積もった美術館の庭)
| - | 18:08 | - | -
CALENDAR
S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
<< July 2010 >>
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
ごめん
ごめん
原田 マハ
RECOMMEND
RECOMMEND
一分間だけ
一分間だけ
原田 マハ
RECOMMEND
さいはての彼女
さいはての彼女
原田 マハ
RECOMMEND
おいしい水 (Coffee Books)
おいしい水 (Coffee Books)
原田 マハ,伊庭 靖子
RECOMMEND
キネマの神様
キネマの神様
原田 マハ
RECOMMEND
恋のかたち、愛のいろ
恋のかたち、愛のいろ
唯川恵、小手鞠るい、畠中恵、原田マハ、ヴァシィ章絵、朝倉かすみ、角田光代
RECOMMEND
花々
花々
原田 マハ
RECOMMEND
ギフト
ギフト
原田 マハ
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT COMMENT
LINKS
CONTACT
naked-maha@haradamaha.com
マハへのメッセージ、お問い合わせはこちらから