ピカソの隣人 三ツ星レストランへおもむく
やなぎさんとうさちゃんがパリにやってきた翌朝。ものすごいことが起こった。
春嵐がフランス北部を襲ったのだ。
明け方4時ごろ、風で窓がガタガタいい始める。風の強さは次第に増し、アパルトマンの屋根が吹っ飛ぶかと思うほどのいきおい。私の寝室は屋根裏なので、ほんとうに吹き飛ばされるんじゃないかというくらいの恐怖を覚える。そのまま、まんじりともせず夜が明けた。

その日のランチは、うさちゃんお楽しみの三ツ星レストラン「ブリストル」に出向く予定だった。これもうさちゃん効果なのか、午前中には嵐は通過した模様。
しかし天変地異とともにパリにやってくるとは、やはりうさちゃん、ただものではない…(やなぎさんとこんちゃんと私のあいだでは、この春嵐はうさちゃんがもたらした、ということで結論された)。

強風にもめげず、午前中はマイヨール美術館で開催中の「ヴァニタス」展を見に行く。これはなんというか面白い趣向の展覧会だった。
要するに、ガイコツ。古今東西(といってもおもに西洋人)の美術家による、ガイコツをテーマにした作品が、これでもかッとばかりに展示されている。「なるほど・・・アーテイストである限り、ガイコツっていうテーマに一度は取り組まなくちゃならないのね…」とやなぎさんはしみじみ。むむっ、やなぎさんの次回作はまさかガイコツ・・・?!と、偉大なるアーティストのそばでそわそわする私。

マイヨール美術館は、昔の富裕層のアパルトマンが改造された美術館で、各部屋ごとにテーマ展の作品が展示されているのだが、ところどころにマイヨールの作品も常設展示されている。これがまた、これでもかッとばかりに豊満な女性の裸像がずらり。ガイコツと豊満なヌード。肉の分量ゼロor100。狙ったのかどうかわからないが、見終わったあと、「肉体も死んでしまえばただの骨・・・・」という諸行無常の響きがあった。

さてお楽しみの三ツ星レストラン。
日本では考えられないのだが、こちらの星付きレストランはとにかく殿様商売で、土日はどこもほとんどが休業。そこで、こんちゃん宅の近くにある五ツ星ホテル「ブリストル」の三ツ星レストラン(合わせて八ツ星)に、こんちゃんに予約を取ってもらった。「いちおう二名ということでお願いしといたけど、いいかな?」と。さすがに二名と一柱とは言えなかったようで・・・。

レストラン内はうさちゃん好みのゴージャス感が漂う。こなれた物腰なれどルックス地味なギャルソンに、「椅子をもうひとつお願いします」とすかさず頼む。一瞬「?」となったが、椅子を持ってきてくれた。そこにおもむろにうさちゃん登場。
ギャルソン一瞬ピクリとなるが、うさちゃんにもにこりと笑いかけるあたりがさすがプロ。以後、遠巻きに私たちを眺めてはいたが、妙な顔ひとつしない。さすが三ツ星、あらゆる種類の金持ちが来るんだろうなあ・・・・・・。
「ちょっとなによ、ここ? イケメンギャルソンがいないじゃないの?」と、うさちゃんのほうが文句を言っている。たしかにムムッとなるようなイケメンギャルソンはいない。もっとこなれた、ベテラン系の方々ばかりで、ちょっとがっくり。

お料理は文句なくおいしく、プレゼンテーションもあざやか。ひとつひとつを堪能して、うさちゃんまたもやご満悦。次第に店内が混み始め、徐々にギャルソンが奥から出てくる。ふと気がつくと、あれもイケメン、これもイケメン、イケメンギャルソンのオンパレードになっていた。むむう、満席になるタイミングで出してきたか。さすが三ツ星・・・。ブラピ風、ギリシャ彫刻風、オリエント風・・・・・・いつしか私たちは、料理でなくギャルソンのほうにすっかり気を奪われていた。
ただし、私たちのテーブルの担当は、最初についた地味〜なベテラン。どことなくサラリーマン風、経理課の課長とかやってそうな生真面目な感じの彼を、私たちは「鈴木課長」と呼んで、勝手に親しんだ。

午後3時ぴったりに、ロビーにこんちゃんが迎えにくる。シンデレラを迎えにやってきたかぼちゃの馬車のごとく・・・。
春嵐の昼下がり、夢のランチのひとときでした。
| - | 17:39 | - | -
ピカソの隣人 ワインを堪能する

(こんちゃん家の愛猫、次郎。うさちゃんの敵。)

やなぎみわさんと私、そしてうさちゃん。二人と一柱は、パリの友人・こんちゃん宅へ夕食に招かれた。

復習しておくと、こんちゃんは私にとって「パリと不可分」な存在。彼女がいてくれたからこそ、パリに長期滞在するはずみがついた。頼れる存在ながら、天性の方向音痴はもはや芸風の域に達している、という人。

ご主人のフランス人、フィリップ(通称ぴーちゃん)は、ブルゴーニュワインが大好きで、自宅の地下カーヴに何百種類ものワインコレクションを持つ、その道のツウ。
しかしながら、ヨメのこんちゃんはまったくの下戸。ちなみに私も下戸。
以前、ぴーちゃんが運転してくれて、三人でブルゴーニュ地方に行ったことがある。すてきなヌーベル・キュイジーヌのレストランで、「このワインが最高に合うよ」とぴーちゃんに産直ブルゴーニュワインを勧められるも、「へえ〜」と感心するばかりで一滴も飲めないふたり。ちなみにぴーちゃんも運転手だから飲めない。いったいなんのためにブルゴーニュまで出張ったのか・・・遠峰一青(ワインマンガ「神の雫」に登場するワインコンサルタント)に聞かれたら張り倒されそうな話だ。

「なによあんたたち、こんなにお宝があるのに飲めないの?!」
と、遠峰一青の代わりに私たちを罵倒したのは、もちろんうさちゃんである。
ふたりと一柱をお出迎えしてくれたぴーちゃんは、まったく動じることなく偉大なアーティストと霊的存在を受け止めてくれた。そして、うさちゃんを地下カーヴへといざない、膨大なコレクションを見せてくれた。かつ、うさちゃんに「この一本を、あなたに・・・」とベストな飲みごろのワインを献上。うさちゃん、いたく感激。ああぴーちゃん、懐が深すぎます・・・。


(1992年ね、いいんじゃない。)

こんちゃん渾身のテーブルセッティングも麗しく、うさちゃんのための玉座も用意されていた。さらに、こんちゃん渾身のオニオンキッシュの美味なことこの上なし。うさちゃん、すっかりご満悦。ぴーちゃんに女心も動いた様子・・・。
やなぎさんもすっかりリラックスし(もはやベルリンでのできごとは遠い夢のようだと)、ロゼシャンパンとワインを堪能。私も下戸ながら、ちょっとだけ堪能。美味いワインの味だけは、おぼろげながらわかるんだよなあ。


(なかなかのテーブル・セッティングね。)


(こんちゃん手製のキッシュ。美味すぎ!)

おそらくこんちゃんは、エリザベス女王来駕レベルの緊張感を持ってうさちゃんを迎えたことだろう。友の心遣いともてなしに感謝。

帰り際に雨が激しく降り始める。翌朝に大変なことが起こるのだが、それについては次回。
| - | 20:14 | - | -
ピカソの隣人 ショッピングに繰り出す
さて、噂のうさちゃん続報です。

前回のブログを見たうさちゃんよりコメントが入った。「正面の写真もなかなかいけるわね」と。ありがたきお言葉。そして、「趣味嗜好のところに、”珍獣好き”っていうのも加えてほしいわ」。はは〜〜っ(ひれ伏す)。ということで、前回のブログに書きくわえておりますので、再読されたし。

ベルリンでの禁欲生活から解放されたやなぎさんとうさちゃんは、「お腹がすいたから牡蠣とイケメンギャルソンの両方を味わいたい」、とおっしゃる。そんなわけで、まずは近所の人気ビストロ「ル・プログレ」へ出かけた。そこでイケメンギャルソンにシャンパンと生ガキをご奉仕されて、いたくご満悦のうさちゃん。


(カキ、美味だわあ。)

ところで、わがアパルトマンの周辺は、いまパリでもっともホットなショッピングエリアである。
サン・ジェルマン・デ・プレやマレにはブランドショップや雑貨屋がひしめいているが、ここ北マレではセレクトショップや独立系ブランドなどが目白押し。この周辺を歩いて心ときめかない女性(にょしょう)はいない。少なくとも、われら二人と一柱は、もろにハートを撃ち抜かれてしまった。
私は普段からこのへんをぶらぶらして、「いやいや、誘惑に負けてはだめだ」と自分をいさめてきたのだが、禁欲生活から解放されたやなぎさんとうさちゃんにうっかりシンクロしてしまい、まさしくパンドラの箱を開けてしまった。
結局、私たちは、うちのアパルトマンから半径100メートル以内にあるすべてのブティックをつぶさにチェックし、そこで3時間を費やした・・・。
何しろ日曜日のパリではほとんどの店が閉まっているので、「今日(土曜日)1日ですべてのものを買い尽くしなさいよ!」とうさちゃんより指令がくだったのだからしょうがない。とまあこんな感じで、うさちゃんはやなぎさんと私、二人のにょしょうの欲望を後押ししてくれる存在でもある。

結果、私の財布はカラになった・・・。

さて、夕食はこんちゃん宅に招かれている。
こんちゃんには、やなぎさんたち到着前からうさちゃんという「存在」についてかさねがさねレクチャーをしておいた。そのせいか、こんちゃんの中ではやなぎさんとうさちゃんがすでに渾然一体化している様子。ご主人のフィリップ(通称ぴーちゃん)にいたっては、不思議な存在がやってくる、とだけしかこんちゃんに聞かされていないらしい。さて、うさちゃんとご対面時にどんなリアクションをするだろうか・・・。

ふう。なんだかまた息切れがしてきたので(うさちゃん効果)、続きは明日。


| - | 19:10 | - | -
ピカソの隣人 偉大なるアーティストの来訪を受ける
先週、アーティストのやなぎみわさんがパリへやってきた。

やなぎさんは、いま、もっとも輝いている写真・映像のアーティスト。
世界最大の現代アートの祭典・ヴェネチア・ビエンナーレで、昨年、日本代表アーティストに選ばれた。東京都写真美術館や国立国際美術館でも個展を果たし、いまや世界が注目するアーティストである。

5年ほど前に、私は、上海で「上海COOL」というアジアのグループ展の企画にキュレーターとして参加したのだが、そのときにやなぎさんの代表作「エレベーターガール」を出品していただき、以来のご縁だ。
実は、私の小説「#9」(上海の洋館を舞台にした恋愛小説)の表紙を、上海にて撮りおろしていただいてもいる。世界的なアーティストにわざわざ表紙写真を撮りおろしてもらうとは、まったくキュレーターをしていてよかった、とわが身の幸運を思わずにはいられない。

そしてここだけの話だが、やなぎさんと私がかくも親しくなったのには、私がアーティストとして彼女を尊敬している以外にも深いわけがある。

それは・・・・「うさちゃん」の存在である。

なんというか、非常に説明しづらいのだが、やなぎさんには「うさちゃん」というこの世の摂理を超越した絶対的な存在がある。見る人が見ればお姫様にも征服者にも宇宙からの来訪者のようにも見えるこの「存在」は、やなぎさんが幼い頃から共にあり、もはややなぎさんと不可分な存在である。

そして驚くべきことに、この「存在」はしゃべる。

かつ、うさちゃんは恐ろしいほどに趣味嗜好がはっきりしている。
□イケメン好き。□ワインとブランデー、ロゼシャンパン好き(ワインの銘柄はロマネ・コンティ)。□肉食(ジビエ、とくにウサギ肉は大好物)□葉巻はキューバ産に限る。□ロココ系装飾を好む(ドレスはすべてフリル、フサフサ、ベルベット、シルクなど装飾過多)□ブランド好き(エルメスなど伝統ブランドに偏りがある)□多分に「ドS」の気がある □珍獣好き(四川省にてパンダ養育園を訪問、竹をむさぼるパンダにヤキを入れた経験あり。将来の夢はマダガスカル島に行って珍獣たちを支配下に置く)・・・・などなど、枚挙にいとまがない。

うさちゃんを見ていると、女とはかくあるべし、という女性(にょしょう)の業の深さと生きざまを見せつけられる思いだ。
やなぎさんも私も、うさちゃんのようにはとてもじゃないが生きられない。だからこそ、うさちゃんの存在に励まされ、また憧れもする。こんなふうに生きていけたら、女として最高に幸せだろうなあ、と・・・。

などと書いても、なんなんだいったい?! と普通の人々には思われること間違いなしだが・・・

まあ、とにかくやなぎさんとうさちゃんがパリにやってきた。
やなぎさんは、雪の降る寒いベルリンのギャラリー(巨大な倉庫を改装した700平米もあるギャラリー)で個展のオープニングがあり、その帰りにパリに立ち寄ってくださった。なんでも、ベルリンでは展示作業とオープニングのバタバタで大変禁欲的な生活を送ったらしく、うさちゃんいわく「さっさとパリに連れてきなさいよ!!」とのことで。

で、パリにやってきた一人と一柱(うさちゃんはある意味霊的存在なので、このように数えさせていただきます)は、このあと欲望を噴出させることになる。

うさちゃんのことを記述するのに異様に気をつかい、ちょっと息切れがするので、うさちゃん in Paris の報告は、次回まで待たれよ。


(芸術家に霊感をあたえるミューズ、うさちゃん。)

| - | 17:29 | - | -
ピカソの隣人 またもや夜ルーブルに出かける

(グランギャラリーの展示)

先週の金曜日、芸術雑誌の編集者・MさんとカメラマンのHさんがアパルトマンへやってきた。
プレスツアーでパリへ来たのだが、私がルソー関連の小説を書くことを、このまえパリへ行ってきた同僚のIさんから聞かされて、興味を持ってくださった。今度私がバーゼルのルソー展を見に行くので、そのリポートを寄稿してほしいとのことだ。もちろん、喜んで!
Mさんたちはポンピドゥー・センターの足元にある「ブランクーシのアトリエ」を再現した分館のそばのホテルに投宿していた。で、自称「ブランクーシの隣人」。そういえばIさんはクリュニー美術館(中世のユニコーンのタペストリーで有名)の隣に泊まっていたから「一角獣の隣人」。パリはどこに泊まっても美術館や芸術家の隣人になれるのだからすてきだ。

アパルトマン1階の超人気ビオカフェ「ローズカフェ」に早めに行って席を取る。Mさんたちとともに、ようやく初めてローズカフェでランチをすることができた。おいしいにはおいしかったが、日本のカフェ飯とどこが違うんだろう。それなのにリゾットが2000円って・・・。日本のカフェのレベルも上がったもんだ、とパリのカフェにてしみじみ思う。

さて夜は再び夜ルーブルへ。
今度は前回見残したギリシャ、エジプトを中心に回ることにする。
いやあ、それにしても私の好みの小物が満載。
もっともすばらしかったのは、紀元前300-400年前(つまりいまから2300年ほど前)のローマ時代の小オブジェを集めたギャラリー。
ガラスのケースにバランスよく展示し、下から照明をあてている。それが夜の暗いギャラリーにふわっと浮かびあがって、なんとも幻想的。



19世紀後半に、このローマ時代の小オブジェを変質的に集めた何某というコレクターがいたらしい。彼の死後、コレクションはルーブルに寄贈された。やたら大型作品が目白押しのルーブルにあって、これらの小オブジェは夢のように軽やか。そして「ほ、ほしい・・・!」と本気で私を悶絶させるものばかり。
百の言葉で語るよりも、ビジュアルがモノを言う。ごらんください、この美しきオブジェの数々!

(ピカソみたいなローマのオブジェ)

(ローマ時代の犬のオブジェ)

(天使のディスプレイも見事!)

(鳩のオブジェ、マジで欲しい・・)

(ローマ時代のガラス)

(こんな可愛い鳥のオブジェが!)

(瓶の美しさたるや・・)

そして奥の院にはギリシャ時代のアンフォラの部屋を発見。ぞっとするほどの美しさと、圧倒的なボリューム。なんだってこんなにお宝だらけなんだ・・・・・・。


(ギリシャのアンフォラの部屋。何個あるんだ・・)

(ギリシャのフクロウたち)

さらに10-14世紀のドイツ、北方の木彫の部屋に行きつく。マグダラのマリアがガラスケースの中で息づき、昇天するキリスト像はほんとうに宙に浮いているかのごとき軽やかさ。なんなんだ、このモダンっぷりは。これが700年まえのものとはとても思えない。舟越桂かと思った。


(14世紀、マグダ○○のマリア?)

(どうです、この浮遊感!)

窓の外に夜の帳が下り、セーヌの川面にはオレンジ色の明かりが揺らめく。何度来ても、何度見ても美しい。ほんとうに帰りがたい。
やはり、ルーブルは夜に限る。いまのところは。


| - | 08:12 | - | -
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